空手指導員として
海外青年協力隊に参加して
大西 良作 著

空手を始めた理由

バブル真っ盛りの頃。大学に入学した私は、たんまり貰った入学祝い金を懐に、インド旅行の計画をたてました。一ヶ月間の一人旅です。
私にとってはこれが初めての海外旅行でした。
期待より不安がいっぱいです。

その時、こう考えました。
「海外に行くのなら、何か日本の文化をマスターした方がいいな。武道がいいかな。いざという時、護身にもなるし海外に行くには一石二鳥だ。」

私が空手をはじめたのは、こんな理由でした。
こうして、新入生だった私は空手クラブに籍をおきました。幸い良き指導者にも恵まれ、日々稽古に汗を流しました。

大学は中退しましたが、空手はその後も続けました。


空手で海外へ

15年の歳月が過ぎました。

空手は三段、大会でも多くの入賞を獲得でき、指導員として後進の育成にも力を注いでいます。
インドが初めてだった海外旅行はその後、定例化し、自分をリフレッシュするよい機会となっています。

ある日、ベトナム旅行から帰国して間もない頃、ベトナムで日本の指導員を募集しているという話を聞きました。
応募者が居なくて困っているとのこと、

「よし!行こう!」
それまで日本で、約十年、空手を教えてきました。日中はサラリーマンとして会社の仕事に精を出し、夜は空手道場で過ごす毎日です。

この募集は海外青年協力隊事業のボランティア活動の一環であり、高いレベルの技術は要求されていません。むしろ大切なのは本人のやる気であり、地域住民に溶け込める柔軟性です。

私は、全日本選手権に出るような有名選手ではありませんでした。指導者としての実績もありません。でも、やる気なら自信がありました。
勤務先の理解もあり、2年間休職してのベトナム行きが決定しました。

海外旅行に行くことがきっかけで空手を始めた私が、こうして今、空手を教えるために海外にきています。




ベトナムで日本の少子化問題を考える

現在、日本のスポーツ界で深刻な問題のひとつに少子化があります。
もちろん少子化は社会的な問題ですがスポーツ界も例外ではありません。
あらゆるスポーツで子供の競技人口が減少しています。

空手の道場でも当然、年ごとに子供の数が減っています。
まあ、練習は概して、年配の方のほうが真面目なので、「熱気」は感じます。
しかし、子供の多い道場と、そうでない道場は明らかに「活気」が違います。

ここベトナムでは、子供が街に溢れています。
街に子供が溢れると、それだけでエネルギッシュです。街に活気があるのはそのせいだろう。生活しているうちにそれを確信しました。

当然ながら、わたしが教えるベトナムの空手道場も子供で溢れています。
多くの子供を集中させるのには、ものすごいエネルギーが必要です。
日本での指導では、神経を使うことが多かったですが、ベトナムの指導はエネルギーのぶつけ合いのようで、日本よりもずっと疲れます。

しかしながら心地よい疲労感でもあります。

日本における少子化の原因のひとつに、「育てることの困難なこと」があげられているそうです。教育の負担が大きい為に、二人、三人と子供を育てることができないという訳です。

貧しい国では、貧しいが故に労働力として子供が溢れ、豊かなはずの国では育てることができないとの理由で子供が減っている。世の中なかなかうまくいかないものですね。


「先生の日」

「先生が尊敬される」度合は今の日本からは信じられないレベルです。

空手の先生も例外ではありません。地位は日本よりずっと高いです。
普段から生徒や地域住民から敬われているので、とても気持ちよく仕事に励めます。

クライマックスは「先生の日」です。毎年11月20日が近づくと、街は日本のバレンタインデーを思わせる雰囲気になります。

テレビでも特集が組まれて、全国の名物先生が紹介されたりします。
当日になると生徒からは店が開けるほどの花束が届けられます。(なぜか菊の花が多い・・・)

メッセージカードをもらったり、ちょっとしたプレゼントがもらえたりするのも楽しみです。
現在教わっている先生だけではなく、かつての恩師に会う為に帰郷する生徒までいます。

この日を前にすると、教えるのも自然と力が入ります。
「先生になって良かった」と実感できる一日です。

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