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オジサンたちの日本アルプス
安井 米丸

平成14年8月1日木曜午前7時。
その朝、北アルプス槍ヶ岳山荘付近は濃いガスが立ち込め、視界はほんの2、3mがいい所だった。
待つこと約30分、少しだけガスが晴れ束の間だが槍ヶ岳山頂が見えた。

「よし、登ろう」
リーダーの槙田さんが言い出し、合計年齢245歳の私たち4人は山頂目指して登り始めた。
登ること約30分、ついに私たちは日本第4位の高嶺槍ヶ岳山頂(3180m)に立った。

山頂もガスはひどく視界はゼロに等しかったが、暫く待つと急にガスが消え360度のパノラマが開けた。

「やった!」
と思わず小さな叫びが出た。
この達成感を味わえるまでの道のりは、決して平坦ではなかった。

話は3年前に遡る。
私たち4人が出会ったのは、失業者向けの職業訓練校だった。

50代でリストラに遭った者が、私ともう1名。
60過ぎで、まだまだ勤労意欲旺盛な者が2名。

平成大不況の下、中高年には再就職の道は厳しく、止むなく職業訓練校に来ていた。

晩秋のある日、1人が放課後、
「たまには新鮮な空気を吸いに歩こう」
と言い出し、皆で近くの畝傍山へ行ったのが始まりだった。

何しろ軽い気持ちのハイキングなので、大和三山を登ってしまうと少し欲が出、今度は少し時間と距離を長くしてみようということになり、飛鳥周辺や吉野山近辺などを散策した。

最初は気晴らしを兼ねての軽いハイキングだったが、次第にそれだけでは満足せず気が付けば、2回に一度は山へ登るようになった。

それも当初は、1000m位までの低い山だったが徐々にエスカレートし、奈良県内の大台山系や台高山脈の高山を選んでは、次々と登頂して行った。

日程はいつも一カ月前に決めているので、時には雨に降られて中止となり、近くの健康ランドで温泉に浸り皆で昼食会ということも、度々あった。

またその頃には皆、それなりに仕事に就いていて(就職でなくて、半ばボランティアの人もいた)全員の日程調整が一苦労だった。

それでも、月に一度皆で山登りに行くのはレクレーション兼健康管理、そして気分転換もあって誰もが楽しみにしていた。
山へ行っている時だけ、私たちは青年になれた。

一度家へ帰れば、老後問題は現実であり、介護問題は決して遠い未来の出来事ではなく、明日の現実だと誰もが認めていた。

それ故に皆、健康管理には人一倍熱心にならざるを得ず、登山している時は皆が年を忘れた。

1年はあっという間に通り過ぎて行った。

1年後、最年長の村田氏が、日本アルプスに行きたいと言い出した。誰もが驚きすぐには声が出なかった。

学生時代にアルプス登山の経験がある槙田氏が、天候の安定する夏場に余裕のある日程を組めば行けると言ったので、それは一気に現実のものとなった。

私たちの日本アルプス初挑戦は、三泊四日での燕岳(2763m)から大天井岳(2922m)だった。山麓の中房温泉から山頂近くの山小屋まで八時間もかかり、リーダーの槙田氏を除いては全員がバテていた。山頂近くでは生憎と雨が降っていた。

皆、声も出ず完全に元気も無くしていた。
こんな事は2000mを超すアルプス山上では日常茶飯事で、予想していたとはいえ急激な天候変化を甘く見ていた結果だ。

その夜は疲れもあってぐっすりと眠り、翌朝4時に起床して御来光を拝んだ。360度パノラマで見渡せる御来光は感動以外の何ものでもなく、無言でただじっと見続けていた。

間近に見えるアルプスの嶺々や、遙か遠くの彼方に見える富士山の姿は実に美しく、私たちは荘厳な世界に浸っていた。

結局、この時は無理をしないということで意見が一致し、大天井岳を割愛して下山した。

その時栗崎氏が軽い捻挫を起こし、私も足が引き攣り、我々の日本アルプス初挑戦は惨憺たる結果となった。
山を甘く見たせいでいい教訓だった。

それから半年後、翌春にはまたアルプスへの熱き想いを、皆持っていた。
燕岳であれほど痛い目にあったのにだ。

今度は慎重に計画を練り、予め2000m前後の山を2、3度登り体力作りも万全を期した。

その成果が実って翌年は白馬岳に、そして3年目には念願の槍ヶ岳にも登れた。

私たちはともすれば、老後に暗いイメージを持ち介護とか、痴呆等を思い浮かべ勝ちだ。そうならないためにも健康で、元気に動き回りたいし、その手段として山登りを選んだ。

まだまだ若い人には負けたくないし、そのためのアルプス挑戦だ。
幾つになっても目標を持って生きることが大事であり、それは生き甲斐にも繋がってくる。

家族にとってもありがたく良いことだと思う。
歩くのが主体だから、お金もあまり要らず、まさしく一石二鳥も三鳥にもなる。

この元気さを持続させて近いうちに、エベレストへの挑戦も考えてみたい。

                         

(奈良県発信)

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