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トイレに入ろうとドアノブを回した時、何か引っかかる感じがした。
赤と青の表示は完全に赤になり、ノブはもう動かなくなくなってしまった。
さあ、どうしよう、ドアをノックしてみるが、中に誰かいる気配はない。
外に廻って開けるしかない。
トイレの窓は上の方にあるし、大きなものではない。
でも何とか開けなければ・・・。
脚立と1メートル物さしを持っておそるおそる脚立に上がり、トイレの窓から覗いてみた。
やはり誰も入っていないし、鍵がかかっっている。
物さしで鍵を回してみようかと差し込んでみるが、空振りばかりでなかなかうまく開いてはくれない。
そこに、トイレに入ろうとしたのか「母さん、何やってるの」と、中学二年の長女の声がした。
「トイレの鍵がどういうわけか勝手にかかっちゃってねえ、開けようとしてるんだけどなかなか開かないんだよね」
「えー!」と叫んで長女も傍に来てくれた。
ウンウンとうなるばかりで、なかなか開けられない私を見かねたのか・・・
「私が替わるから、母さん降りて」私が降りると、長女は軽々と脚立に上がった。
「あ、こりゃダメだわ、私、中に入るから」そう言うと窓をはずし始めた。
「母さん、靴脱ぐから受け取ってよ」脱いだ靴を受け取ってみると・・・
うわっ! でかっ! サイズを見ると私と同じ。
長女は窓枠に足をかけると、狭い窓からするするっと中に入っていった。
ガチャッ! 鍵を開ける音。
「母さん、聞いたよ」何の感動もない声。
私のほうが超感動。
「わーありがとう、開いた。よかった!ありがとう、ありがとう」
長女は用を足すとさっさと戻って行ったらしい、私の声になんとも答えない。
それにしても・・・。
幼い頃まだ自分の名前が“里美”とは言えなくて小さな手を精一杯広げ、胸にあてえ「みぃ」と一生懸命相手に教えていたあの子が・・・。
食が細くて、小学校のころから身長順に整列するといつも一番前。
でも、何かの行事で役員など決める時に、手を挙げるのも一番だった。
運動会の時には応援団としてクラス全員の真ん前で『必勝』と書いた長い鉢巻きを締め、ガクランを着て踊っていた。
学校の合唱コンクールの時には、指揮者に立候補した。
大きな指揮台を持ってくる時、まるで蟻がセミの羽を運んでいるようで観客席からクスクス笑い声が聞こえてきたっけ。
そんなキミがまたしても目立ちたがり本能を発揮し、副会長に立候補。
そして見事当選。
でも、一度だけ登校拒否というつまづきがあったよね。
ただ、今となってはそれが私たち夫婦を、本当の話し合いができる夫婦にしてくれたきっかけになったようで、感謝しています。ホント。
今のところまだ身長は私より低いみたいだけど、すぐに追い越されるんだろうなあ・・・。
トイレに行きたかったことを思い出し、慌てて駆け込んだ。
脚立を片づけて居間に戻ってみると、長女はなにごともなかったように、片手を枕にして寝っ転がっている。
「いやーありがとう里美。助かったわ。あんたって泥棒の才能があるよ」と、言ったら「バッカみたい」横目でじろっと睨まれた。
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