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48歳、僕の挑戦
白石 裕雄

学校を出てサラリーマンになり、20代後半に結婚して、30歳で子どもができた。
それまでは、朝早くから夜遅くまで休日も無いほど仕事に追いまくられていた。

酒とタバコ、ストレスや運動不足から、早くも中年太りが始まり体力の衰えを自覚するようになった。

子どもができたことを境に、これからの自分の人生はのびのびと、自分のやりたいことを後悔せず実行する生きかたを目指すと決めた。

会社の仕事はキチンとやるが、自分の時間はシッカリと確保し、会社以外にも自分の世界を創ることにした。

まだ高度成長の名残で周囲には、会社人間・仕事人間が溢れていた。
そんな上司や仲間にへつらうことなく、効率よく仕事をこなしてできるだけ早く帰宅した。

人生を楽しむための基本は体力作りと考えた。
学生時代には運動をほとんどやっていなかったが、泳ぐこと、走ることから始めた。同時に一大決心をして禁煙も始めた。

それまでは全く泳げなかった。
まずはクロールでカッコ良く泳ぐことを目指した。
無茶とは思いつつ、鉄人レースと呼ばれるトライアスロンに挑戦することを最終目標にした。

電話帳で調べて、会社と自宅の中間点にあるスイミングクラブに週2回通い始めた。25mをクロールで泳げるようになるまでに2年かかった。

“継続は力なり”を信じて練習を続けた。
40歳で、マスターズのスイミング大会に参加する程度に泳げるようになった。

走ることもジョギングから始めた。
初めは5分間走ると息が切れた。
少し走っては歩くことを繰り返し、少しずつ距離を伸ばした。

5年経ったころからマラソン大会に参加するようになった。
年に数回、10キロマラソンやハーフマラソン大会を走った。

40歳を過ぎてフルマラソン大会を完走できるようになった。
泳ぐ力、走る体力が付いてきたので、いよいよトライアスロンへ参加することを考え始めた。

47歳になっていた。スイミングクラブで知り合った友人から、海で長い距離を泳ぐ仲間がいるので、トライアスロンの練習には最適だから練習会に参加しないかと誘われた。

この会主催者の大貫さんは大学生の時、日本人女性として初めてドーバー海峡を泳いで渡ったという有名人だ。
年末に、この仲間の忘年会に参加した。

その席で、12月31日昼12時から元日の正午までの24時間を千葉の室内プールで、6人のメンバーがリレー方式で泳ぐというイベントがあると聞かされた。

後1人メンバーが足りなくて困っていた。
酔った勢いで参加を表明してしまった。

それから12月31日までの数日は、後悔と不安の日々となった。
連続1時間の水泳、6時間の間を置いて4回泳ぐということの大変さが心に重くのしかかってきた。

水泳大会には何回も参加していたが、通常の水泳大会は、1レースが長くても100m、時間にして数分間の競技だ。

練習でも1時間連続で泳いだ経験は無かった。
夜中の時間帯を含めて4回も泳げるのか心配になってきた。

リレーなので途中棄権は仲間に迷惑をかけてしまう。
レース前日、メンバー表と泳ぐ順番がメールで送られてきた。

12月31日夕方4時、夜10時、元日明け方4時、朝の10時から夫々1時間、合計4回が担当と決まり、もう逃げられないと覚悟を決めた。

レース当日。
会場に早めに入り、他の人が泳いでいる姿を見て少し安心した。
それぞれが自分のペースで、のびのびと泳いでいた。

このレースは、他人と競争することが目的ではない。
24時間を、各自が自分のペースで着実に泳ぎ切ることが大切なのだ。

それが分かり肩の力が抜けた。レースが始まった。
泳ぎ始めは自分の体調を確認しながら慎重にペースを作った。

20分を経過したころから体は楽になった。40分を過ぎると「もう残りは、たった20分だ」と、前向きに考えた。

年末のテレビをボッと観ている1時間なんてアッと言う間である。
そう考えたら1時間という時間の長さに対する恐怖心は無くなった。

夜の10時や明け方4時に泳ぐのも初めての経験だった。
心配していた疲労も予想よりは少なく、何とか無事に泳ぎ切ることがさきた。

元日の朝。10時からの4回目最終回は最高の気分で泳げた。
外は明るくなり新年の陽光がまぶしく差し込み、清清しい気持ちになった。

「後、1時間だけ泳げば僕の担当は終わりだ。」という開放感で、体中に新たな力が湧いてきた。泳ぐことが本当に楽しかった。
そして大会は終わった。

表彰式も何も無い。
お互いがお互いを称え、自分で自分に対して良くやったと、素直に喜べた。

何にも替え難い経験となった。
世間では中高年に対するイメージが一様に暗い。
48歳になった僕には、新たなことへ挑戦をしている今が、青春の真っ只中だ。

これから本格的にトライアスロンへ挑戦する。
今まで作ってきた自分の持久力、体力を使って50歳から本当の人生の楽しみが始まる。

心からそう思っている。

                         

(東京都発信)

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