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おにぎりおにぎり
和泉 まさ江

今日は事務所のお引っ越し。
吸収合併で、うちの事務所が相手先に移ることになったのだ。

通い慣れた事務所を後にするのは辛いけれど、今度のところはオフィスという名がぴったしの、光あふれる素敵な事務所。
制服もない。女性の背筋が伸びているのが良い。

課長も女性。すごい。
うちの頭のうすくなりかけた、ポマードたっぷりの課長はどうなることやら、新しい美人課長の下に働くことになる。

順応できるのかしら。
でも、そういうわたしだって、どうなることやらわかりゃしない。

段ボール箱を次々運び込む。
経費削減とやらで、引っ越し業者すら委託できない弱小会社。

まあ、いいや。それも今日でおしまい。
明日からは大手の会社に勤務ということになるのだから。

六時に家をでてから働きずくめ。お十時のお茶もない。
十二時。やっとランチタイム。

新しいオフィスの職員は、さっそうと私服で外食にでかける。
わお。いいな。

昨日までは、うちの事務所はむなしい仕出し弁当。
安いだけが取り得の弁当。

明日からは丸の内レディ。
雑誌にのっているお店にランチにいけるわけ。きゃっ!

さああてと。わたしは朝こしらえた「おにぎり」をぼんと机の上に置く。

大きなおにぎりを五個。
大好きな梅干しをいっぱいいれてある。
梅干し、鮭、カツオ、昆布にツナマヨ。

海苔はぐるりときれいにまいてまいて。
ぱりぱりがいいからと別入れしたりしない。
ご飯のあたたかみでとろりとした海苔がいいのだ。
消化だって、このほうが良いに決まっている。

あれ、課長が立ちつくしている。
「お昼にされないんですかあ」
「いや、どこへ行ったものやら」

げっ、フロ、メシ、ネルの課長世代は、用意してもらえないとお昼すらすませられないのか。

あれま。明日からの丸の内勤務はどうなるんだろう。
こういうヤカラは60才定年で離婚されるんじゃないかな。
ははは。

「君は?」
「わたしですか。しっかりおにぎりつくってきましたから」

「用意がいいねえ」
「人生サバイバルですよ。自分のことは自分で守らなくちゃ」

「そうだねえ」
「外にお店があるみたいですよ」

「いや、もう並んでいるみたいだよ」
「そうですか」

課長につきあっていたら貴重な一時間がおわってしまう。
わたしは袋からおにぎりを取り出し、がぶり。

「自分でつくってきたのかね。コンビニのじゃないの?」
「ええ。お給料日前ですし。お金かけたくないんで」がぶり。

「バーガーでも買ってこようかな」
「ええ、どうぞ」がぶり。

「明日から、参っちゃうなあ」
「ロケーションは最高ですから、困りませんよ」がぶり。

「でも高そうだね」
「おにぎりもってくればいいじゃないですか」がぶり。
「家内がねえ」

おにぎりおにぎり。
困ったときはいつでも、がぶりとおにぎりをほおばる。

人生サバイバル。おにぎりパワーで頑張るのだ。

オフィスレディにからかわれるかしら?
いいえ、それはきっと美味しそうでうらやましいからよ。

                         

(神奈川県発信)

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