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お隣のおばあちゃんは当年とって88歳になられましたが、大変お元気です。息子さんと同居していらっしゃいます。ずいぶん昔に奥さんに逃げられました。
そのあと一時期、押しかけ女房がお隣に住みつきました。でも現在お隣の所帯構成は、おばあちゃんと、おばあちゃんの息子さんと、おばあちゃんの孫の熊太郎くんと亜美さんの計四人で、他に犬が一匹います。
熊太郎くんは14歳で、毎晩9時すぎになると、家の前の道で野球のバットの素振りをします。無口で無愛想で体が大きくて、かなりの肥満体です。
近所のおしゃべりおばさんたちとは、道ですれちがっても、挨拶しません。だから、近所での評判はよくありません。
亜美さんは17、8歳に見えますが、実はもう23歳を過ぎています。夏でも冬でも青いジーンズばかり着て、スカートを履いたことがありません。おしゃれも気がないようで、お化粧らしいことは全然しないようです。
亜美さんは、誰に似たのでしょうか、おばあちゃんにも似ず、お父さんにも似ず、年の離れた弟さんにも似ていません。性格も、家族のだれとも似てないようです。
たいそう犬を可愛がって世話してやってます。お隣の犬は、見るから幸せそうな顔つきで、のんびりウットリ毎日を過ごしているのです。
亜美さんは、外には勤めに出ず、もっぱら主婦の役をつとめているようで、朝から掃除や洗濯で奮闘して、午後には自転車に乗って遠くのスーパーまで大売り出しのお買い物にでかけたり、犬をつれて近くのスーパーへお買い物にでかけたりします。
ここらでそろそろ、私の話をさせていただきます。現在、私は気楽な未亡人生活を送らせていただいております。
亡くなった主人が優しくて真面目で、堅い一方の人柄で、少しは蓄えも残してくれましたし、長男、長女、次男、次女もそれぞれ立派に独立して孫の顔も見せてくれて、ホントに、ありがたいことです。
ただ末っ子のサネトモ(実朝)には閉口しているのです。この子は気はいいのですが、絵を描くことしかアタマになくて、少しも生計をたてるとか、将来のプランを立てるとかをしてくれません。
しかも実朝の描く絵ときたら、シロウトの私などが見ましても下手くそでチッとも見所がないのです。それでも、このあいだ、ナンとかいう展覧会で入賞して本人はますます才能を過信妄想して天狗になって増長しております。
私はお隣のおばちゃんと親しくさせていただいておりまして、よく近くの公園へお散歩がてら、ふたりでおしゃべりしながら、そぞろ歩きをいたします折り、つい、私、実朝のことでおばあちゃんのご意見をうかがったりします。
おばあちゃんは、断固、実朝ちゃんを放り出せ、世間の荒波を実地体験させるのが何より実朝ちゃんの身のためだと熱心におっしゃいます。
そもそもお隣のおばあちゃんは、実朝の名づけ親なのです。とても、私や私の亡き主人なんかには「実朝」なんて典雅な名前は思いつきませんものねえ・・・。
そういう縁でおばあちゃんは、実朝がまだ幼い時分から今にいたるも、ずうっと気にかけてくださっているのです。
実朝にはガールフレンドはいるようですが、本人はあくまで絵のおつき合いだと言っています。つまりモデルと画家の関係であるらしいのですが、
そのモデルさんの絵は多く裸婦画でありますからして、私は、いかがわしいことが起こらないかと、そんな方面でも、たいそう心配でした。
ところが先日、実朝が私に告白して「かあさん、オレ、プロポーズしたんだ。そしたら、その子がオーケーしてくれたんだ。だから、もうふたりで婚約したよ」と申しました。
サア私はびっくり仰天して、お相手さんのことを尋ねました。するとマアまた仰天です。実朝の婚約のお相手は、なんと、お隣の亜美さんでした。
私は亜美さんが好きです。日頃から高く価っている気だてのいい娘さんです。何より、動物好きなところが可愛いです、優しいです。
それに、こんなことを言ってはなんですけれど、亜美さんは、ベッピンさんです。いつぞやお隣に住みついていたチョイときれいな女性より、もっときれいで素敵です。
こんな娘さんが実朝のお嫁さんになってくださるなんて、まさに夢みたい。
苦労をかける亜美さんには申し訳ないこのお話をきいて、私は元気百倍しております。
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